◇社長 島 紀彦 君へ!

 ■ 2012年5月16日 日本とギリシャ

ギリシャでは、6日の総選挙後、連立政権樹立に向けた試みが失敗し、6月の再選挙実施が確定した。6日の総選挙では、緊縮財政策を進めてきた連立与党のPASOKとNDが大敗しており、世論調査による推計では、反緊縮派だけで議席が過半数に達し政権樹立の可能性が高くなってきた。

そうなると、欧州連合(EU)などが金融支援実施の条件とする財政緊縮策の実行が守られず、金融支援の枠組み自体が崩壊し、ギリシャ財政が破綻する懸念が再燃する。

 

現時点で、EUのバローゾ欧州委員長、フランスのオランド大統領、ドイツのメルケル首相は、ギリシャがユーロ圏にとどまること、同時に、財政緊縮策については、ギリシャを含むユーロ圏の政府の合意、議会承認を経ており、修正はできないと述べる一方、ギリシャの経済成長を支援する景気刺激策を付け加えることは可能だとも述べ、柔軟な姿勢を見せている。

 

このようなギリシャの危機を多額の財政赤字を抱える日本に当てはめ、日本がギリシャのような事態に陥らないようにするには、財政再建が急務だ、政府支出の削減が必要だ、消費税増税が必要だと唱える財政再建論者が非常に多い。

 

しかし、このような財政再建論者の政策は、ギリシャと日本のフロー面とストック面の財務状態の違いを看過しているか、あるいは、あえて隠蔽して結論を先取りしており、今の日本がとるべき道ではない。ギリシャと日本は何が違うのか。

 

まず、ギリシャでは、1990年代半ばまで高いインフレ率が続いていた。国内の供給能力が潜在需要を満たせないインフレギャップが発生し続けていたからだ。ギリシャがユーロに加盟すると、ECBによる金融政策でインフレ率は低下したものの、相変わらず、国内で付加価値を作る労働や投資は増えなかった(あるいは増やさなかった?)ことから、国内の供給能力は増えず、輸入に依存したため、貿易収支赤字、経常収支赤字の状態が続いている。さらに、現在のギリシャは、国内の需要が冷え込み、2012年のギリシャは物価上昇率がマイナスに落ち込むと予想されている。これがギリシャのフロー面だ。

 

この経常収支赤字を埋めるため、ギリシャは、自国通貨のドラクマでなく、共通通貨つまりギリシャが発行権限を持たない外貨であるユーロによる債務を増やして、社会保障などの経常支出を賄ってきたため、外貨建て債務が累積した。しかし、もともと国内では貯蓄過小のため、その返済ができないとの懸念から、長期金利は急騰している。これがギリシャのストック面だ。

 

ギリシャの状態をまとめれば、貿易収支赤字、経常収支赤字、外貨建て債務、長期金利上昇といえる。この状態で、EUから支援を受けるのなら、ギリシャ国民にとっては苦難だが、財政再建が求められるのも致し方ないかもしれない。

 

日本はどうかといえば、財政赤字は同じだが、フロー面もストック面もギリシャの状態とは全く異なる。

そもそも、日本は、フロー面では、今年こそ東日本大震災の影響による輸入増のため貿易赤字に陥ったものの、それ以前までは経常的に貿易黒字を溜め込んでいたし、経常収支は黒字を維持している。

ストック面では、バブル崩壊以降、資産デフレの状態だ。すなわち、バブル経済で形成された過剰資産と過剰供給能力が、需要を超えているデフレギャップの状態が続いている。その結果、物価が継続的に下がり、企業業績が伸び悩み、従業員給与が下がることから、先行き不安感を募らせた企業や家計は、債務を返済し続け、貯蓄を増やしている。国内で付加価値を生む出す供給能力が足りないギリシャとは異なっている。

 

こうして消費と投資の低迷が続いた結果、名目GDPと税収が伸び悩み、税収で足りない経常支出を賄うため、国債が累積した。しかし、その債務は、国内の自国通貨建て国債であり、長期金利は1%に満たず低迷している。これは、企業も家計も資金を借りたがらないため、企業や家計から預かった過剰貯蓄の運用先に困った銀行が国債を購入しているからだ。要するに、カネ余りなのであり、また政府に円の通貨発行権があることも考えると、返済ができないという懸念は著しく低い。多額の国債発行によっても、長期金利が低迷しているのはその証左なのだ。カネが足りないギリシャとは異なっている。

 

つまり、日本の場合、デフレギャップにより、ヒト、モノ、カネが余っており、経常収支黒字、自国通貨建て債務、長期金利低下の状態が続いているわけだ。

 

とすれば、今の日本がとるべき道は、ギリシャと同じような緊縮財政ではなく、政府が余剰資金(ストック)を市場から吸い上げ、それを原資に有効需要の創出(フロー)につながる投資を行うことにより、デフレギャップを埋め、名目GDPを増やす積極財政政策が有効であるし、可能であることは明らかだ。

 

 

 

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